自社のサービス名、商品名、そして会社のロゴ。それらは、顧客が自社を認識し、信頼を寄せるための重要な「顔」です。しかし、その大切な「顔」を法的に保護する手続き、すなわち「商標登録」を後回しにしていないでしょうか?
「まだ事業が小さいから」「費用がかかるから」といった理由で未登録のまま事業を続けることには、大きなビジネスリスクが潜んでいます。
この記事では、経営者や個人事業主の方々が事業戦略として商標登録を検討できるよう、そのメリットとデメリットを具体的かつ実践的な視点で徹底解説します。
商標登録がもたらす4つの戦略的メリット
商標登録は、単なる手続きではありません。事業の成長と安定に不可欠な「投資」です。具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
メリット1:【防御】独占排他権による事業の絶対的保護
商標権の最も強力な効力は、日本全国における独占排他権の発生です。
- 権利の行使: 同一または類似の商標を、同一または類似の商品・サービスに無断で使用する第三者に対し、その使用を差止請求できます。また、侵害によって生じた損害については損害賠償請求も可能です。これにより、悪意のある模倣や便乗を防ぎ、事業の基盤を強固に守ります。
- 「早い者勝ち」の原則: 日本の商標制度は「先願主義」を採用しており、原則として最も早く出願した者に権利が与えられます。たとえ先にその名称で事業を始めていたとしても、他社が先に登録してしまえば、最悪の場合、自社の名称を変更せざるを得ないリスクさえあります。
メリット2:【信用】ブランド価値の維持・向上と模倣品対策
登録商標には「®マーク」を付すことができ、これが国に認められた正規のブランドであることの証となります。
- 顧客・取引先からの信頼獲得: 法的に保護された商標は、それだけで社会的信用性を高めます。顧客は安心して商品を購入でき、取引先も安定したブランドとして認識するため、円滑な取引に繋がります。
- 模倣品・粗悪品の排除: 特にECサイトなどでは、海外からの模倣品が溢れかえっています。商標権があれば、プラットフォーム運営業者に対して出品削除を求めたり、税関での輸入差止を申立てたりするなど、具体的な対策を講じることが可能になります。
メリット3:【資産】ライセンスや資金調達に繋がる無形資産としての活用
商標権は、不動産や株式と同様の「資産」として活用できます。
- ライセンス・フランチャイズ展開: 他社に使用を許諾(ライセンス)してロイヤリティ収入を得たり、フランチャイズ展開の根幹となる権利として活用したりと、新たな収益源を生み出します。
- 企業価値評価の向上: M&Aや事業譲渡の際には、ブランドの価値が企業価値に上乗せして評価されます。また、金融機関からの融資を受ける際に、商標権を担保とすることも可能です。
メリット4:【安全】他者の権利を侵害するリスクの回避
事業で使用している名称が、気づかぬうちに他者の商標権を侵害しているケースは少なくありません。
- リスクの可視化: 商標出願を行う過程で、先行する類似商標の有無を調査します。これにより、自社のネーミングが抱える潜在的なリスクを事前に把握・回避できます。
- 事業の安定稼働: もし他者の権利を侵害してしまった場合、名称の変更やウェブサイトの修正、在庫の廃棄、損害賠償など、多大なコストと労力がかかります。商標登録は、こうした不測の事態を防ぐための保険とも言えるのです。
無視できない2つのデメリットとその対策
もちろん、商標登録にはコストや時間がかかります。しかし、これらは対策可能な「ハードル」と捉えるべきです。
デメリット1:登録・維持にかかるコスト(費用)
商標登録には、主に以下の2種類の費用が発生します。
- 特許庁印紙代: 出願時と登録時に国へ支払う手数料です。区分の数(商品・サービスのカテゴリ数)によって変動しますが、最低でも数万円(出願時12,000円+登録時17,200円(5年分 ※2025年6月時点)かかります。
- 弁理士費用: これらの手続きを専門家である弁理士に依頼する場合の報酬です。事務所によって様々ですが、調査から登録まで10万円〜20万円程度が一般的です。※弊所は10万円以下の場合が多いです。
【対策】 これらの費用は、事業を守るための「コスト」ではなく「投資」と捉えることが重要です。権利侵害による損害額やブランド再構築にかかる費用を考えれば、むしろ安価な保険と言えるでしょう。
デメリット2:出願から登録までの時間と手続きの手間
商標は、出願してすぐに登録されるわけではありません。
- 審査期間: 出願から審査結果が出るまで、平均して6ヶ月〜1年程度の期間を要します。ビジネスのスピード感からすると、長く感じられるかもしれません。
- 手続きの複雑性: 適切な区分の選択や、拒絶理由通知(登録できない理由の通知)への対応など、専門的な知識が求められる場面があります。自力で行うことも可能ですが、不慣れな場合は多大な時間と労力がかかります。
【対策】 事業やサービスのローンチ前から逆算して、早期に出願準備を始めることが肝心です。また、複雑な手続きや審査への対応は、専門家である弁理士に依頼することで、時間と手間を大幅に削減し、登録の確実性を高めることができます。
まとめ:商標登録は、もはや経営戦略の一環
メリット(リターン) | デメリット(ハードル) |
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①【防御】独占排他権による事業保護 | ① 登録・維持のコスト |
②【信用】ブランド価値の向上 | ② 登録までの時間と手間 |
③【資産】ライセンス等での資産活用 | |
④【安全】権利侵害リスクの回避 | |
商標登録は、単なるネーミングの保護に留まりません。事業の防御力を高め、信用を築き、資産として活用するための攻守に優れた経営戦略です。
デメリットとして挙げたコストや時間は、専門家を活用し、計画的に進めることで乗り越えることが可能です。自社のブランドというかけがえのない「顔」を守り、力強く育てていくために、ぜひ商標登録を前向きにご検討ください。
もし少しでも不安や疑問があれば、一度、この記事を書いた遠山敬一弁理士に相談してみることをお勧めします。
https://lin.ee/0knngAF
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